2020/04/06更新

2020に注目したいKW ガートナー社「戦略的テクノロジートップ10」を現役ITエンジニアがわかりやすく解説

アメリカのIT専門調査会社であるガートナー社は、2020年の戦略的テクノロジートップ10を発表しました。ガートナー社によれば、このトップ10は「大きな破壊的可能性を持つようになったトレンド」や「急成長しているトレンド」を集めたものだとのことです。毎年発表されるこの「戦略的テクノロジートップ10」は、IT業界からも高い関心が寄せられています。

ただ、おそらく英語を和訳したものであるため、やや難解な表現が使われているなど、少し分かりにくい内容となっています。そこで今回は2020年に注目したいキーワードとして、ガートナー社発表の「戦略的テクノロジートップ10」を、ITエンジニアの視点から分かりやすく解説します。

※参考:ガートナー、2020年の戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10を発表

↓「2019年まとめ記事」はこちら



1. ハイパーオートメーション

1つ目は「ハイパーオートメーション」です。直訳すると「極度の自動化」という意味になります。2019年は、企業や団体においてRPAの導入が進んだ年となりました。RPAを導入した企業の発表を見ても、年間数万時間の業務時間削減に成功するなど、かなりの効果を上げているようです。RPAが急速に拡大した背景には、RPA導入時の効果が目に見えるため経営陣も投資判断がしやすいという点、日本の業務には未だ単純作業が多く存在しているといるためRPAに置き換えやすいといった点があります。

ハイパーオートメーションは、このRPAの流れを組む技術です。RPAは、主に入力作業などといったごく限られた範囲を代行するものですが、ハイパーオートメーションは「自動化する範囲」「自動化する作業同士の関係」「自動化するものの組み合わせ」等が重要になるとのことです。

つまり、現在RPAによって置き換えられている業務よりも、さらに広範囲の業務がハイパーオートメーションにより自動化される可能性を秘めているのです。2020年、企業の業務はハイパーオートメーションによって、さらに迅速に、そしてさらに効率化されているかもしれません。

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2. マルチエクスペリエンス

2つ目は「マルチエクスペリエンス」です。このマルチエクスペリエンスにより、私たちとデジタル世界との関係が大きく変わるかもしれません。十数年前までは、私たちとデジタル世界の関係を取り持つユーザーインターフェースそしてユーザーエクスペリエンスは、ディスプレイ、スピーカー、そしてキーボードといったものしかありませんでした。それが現在では、音声による入力に加えて、AR、VR、そしてMRといった多種多様な入出力が誕生しています。

ガートナーは2028年までに、この状況が更に進化していくと予測しています。現在、デジタル世界とのやり取りは「テクノロジーを理解した人」がモデルとなっています。つまり、様々なデジタルデバイスとやり取りするためには、ある程度のITリテラシーが必要とされます。これが将来的には「人を理解したテクノロジー」となっていくのです。

既に人間の表情を理解する「感情検出」という技術が誕生、更に非接触型の脈拍センサーなども誕生しています。まだ発展途上の技術で、その是非は問われているものの、2028年には、側に近づいただけで、その人がどのような状態であり、何を考えているのかを理解し、即座にレスポンスを返すデバイスが当たり前となっているかもしれません。

3. 専門性の民主化

3つ目は「専門性の民主化」です。ここでいう「民主化」とは、長時間のトレーニングを積まずとも、専門的な技術を簡単に扱えるようになることを指しています。具体的にガートナー社は、専門性として以下の4つを挙げています。

  • データとアナリティクスの民主化
  • 開発の民主化
  • 設計の民主化
  • 知識の民主化

専門性の民主化は、ITエンジニアの仕事の在り方をも変える可能性があります。データサイエンティストでなくともビッグデータの解析ができるようになり、開発者ではなくてもAIツール、ローコード、ノーコード等のツールにより開発・設計作業ができるようになり、ITエンジニアしか使う事ができなかったツールが誰でも使えるようになるといった具合です。

もちろん、民主化できない範囲もあるため、ITエンジニアの仕事が無くなるというわけではありませんが、この「専門性の民主化」の動きには注視しておく必要がありそうです。

4. ヒューマン・オーグメンテーション(人間の拡張)

4つ目は「ヒューマン・オーグメンテーション」です。ヒューマン・オーグメンテーションを簡単に説明すると、テクノロジーを活用して人間が持つ機能を拡張することを指します。最も簡単かつ身近なものはウェアラブルデバイスなどでしょう。ただ、今後は更に高度化し、普及していくと見られています。

いち早くヒューマン・オーグメンテーションに取り組んでいたソニーと東京大学によれば、ヒューマン・オーグメンテーションは「身体能力の拡張」「知覚の拡張」「存在の拡張」「認知能力の拡張」4つの領域に分けられるとされています。身体能力の拡張は、私たち人間が持っている身体能力をさらに強化するものです。これは、最近CMも流れているマッスルスーツなどをイメージすると分かりやすいでしょう。

知覚の拡張は、視覚や聴覚などの感覚を強化するものです。ある食べ物を別の味に錯覚されたり、電気信号により触った感触を再現したりといったものが該当します。存在の拡張は、距離の概念を取り払うものです。例えば、遠隔地にいる人同士があたかも同じ部屋にいるようなものです。認知能力の向上は、対象物に対する知識やスキルを拡張するものです。究極的にいえば、サッカーを知らない人に対して、その知識を拡張することで、サッカーが上達するようなイメージです。

このヒューマン・オーグメンテーションにより、私たち人間の限界は無くなり、場所や時間という概念を意識しなくても良い世界がやってくるかも知れません。

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5. 透明性とトレーサビリティ

5つ目は「透明性とトレーサビリティ」です。GAFAなどをはじめとするメガプラットフォーマー達は、個人情報を収集したビジネスモデルを構築し、莫大な利益を創出してきました。ただ、新しいビジネスであるがゆえに、これまで倫理的な問題などが十分に議論されることがありませんでした。ですが、最近になってこの状況は変わりつつあります。

1つは個人情報はプラットフォーマーのものではなく、個人のものだという気運が強くなってきたこと、もう1つは各国が政府としてGAFA包囲網を構築しはじめたことが関係しています。今後、個人情報を扱うためには、その個人情報をどのように使用するのかを透明化し、個人が好きな時に個人情報の流れを確認できるようにしておく必要が出てくるでしょう。

これはインターネットの世界に大きなインパクトを与えることになるかもしれません。インターネットは誰に対しても自由だという考えのもと、ここまで成長を遂げてきました。今回の「透明性とトレーサビリティ」は、場合によってはこの自由度を奪い、インターネットの可能性を制限する存在にも成り得ます。

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6. エッジ機能の拡張

6つ目は「エッジ機能の拡張」です。ガートナー社によれば、エッジとは「情報の処理およびコンテンツの収集と配信が、情報の発生源やリポジトリ、消費者に近い場所で行われるコンピューティング・トポロジ」とのことです。やや分かりにくい表現となっていますが、簡単にいうと「サーバーではなく、PC、スマートフォン、IoT機器といったデバイス側で、情報を蓄積したり、処理をする」という技術を指しています。

コンピュータのトレンドは、歴史を振り返ると「集中(サーバー側での処理)と分散(クライアント側)」を繰り返してきたと言われています。その点でいくと、エッジ・コンピューティングは分散といわれる技術です。近年では、IoTが爆発的に普及したことにより、インターネットに接続するデバイスは2020年に約400億台に到達するとも言われています。

また、現在はあらゆる分野でITの活用が進んでいますが、その中には処理の遅延やデータの消失が許されないもの、あるいはセキュリティ的な観点から漏洩が許されないものなどが存在します。例えば、自動運転システムです。このようなシステムに遅延が発生すると、最悪の場合は人命が失われるリスクもあるのです。そのため、今後はよりユーザーに近い場所でデータを蓄積し、処理するという方法がスタンダードになっていくということです。

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7. 分散型クラウド

7つ目は「分散型クラウド」です。一般的にクラウドサービスとは、クラウドサービス事業者が用意したプラットフォーム上で、ユーザーが必要なサービスを使用するというビジネスモデルとなっています。例えば、AmazonはAWSというクラウドサービスを展開しています。AWS上には仮想コンピュータのEC2、NoSQL型データベースのDynamoDB、ファイルストレージのS3など様々なサービスが存在しています。

では、AWSで万が一障害が発生した場合、Amazonが全ての責任を持つのでしょうか?答えはNoです。多くのクラウドサービスでは、サービスの責任分界点(誰がどこまで責任を担保するのか)というものを設定しています。これはAWSでは「責任共有モデル」と言われています。

つまり、クラウドサービスとして提供している部分に関してはAmazon社が責任を持ちますが、そのクラウドサービス上で構築した環境やアプリケーションについてはユーザーが責任を持つという考え方です。極端な例では、AWSのデータセンターが破壊されればAmazon社の責任ですが、AWS上のアプリケーションに関するバグはユーザーの責任ということです。

分散型クラウドは、クラウドサービス事業者が「責任共有モデル」よりも、より広範囲に渡って責任を持つと予測しています。クラウドサービスは便利なサービスですが、1つ設定を誤っただけで大規模なセキュリティ事故が発生するリスクがあります。分散型クラウドが主流になれば、より多くの人が当たり前にクラウドを使用する時代が到来することでしょう。

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8. 自律的なモノ

8つ目は「自律的なモノ」です。ここでいうモノとは、IoT(Internet of Things:IoT)のThingsに当たる部分を指しています。現在の「モノ」は、様々なセンサーなどを搭載したデバイスなどが中心となっていますが、まだまだ「機器」の域をこえていません。この状況は2020年以降、AIを活用することにより「モノ」自身が自律的に判断するようになっていくということです。

今回1つ目にあげた「ハイパーオートメーション」と似ていますが、そちらはソフトウェアによる自動化であることに対して、こちらはIoTに関する自動化という理解でよいかと思います。自律的なモノにより、モノ同士が協調的に動作することが可能となります。ガートナー社も発表の中で挙げているように、宅配業務がイメージしやすいでしょう。

宅配物は自動運転カーによってある地域へと配送されます。目的の地域へ着くと自動運転カーに搭載されたドローンや小型ロボットが各届け先への配達を担います。荷物を届け終わると、再びドローンや小型ロボットは自動運転カーに戻ってきて、また別の地域へ移動するのです。このように、モノ同士が高度に連携を図ることで、自律的なモノは私たちのごく身近に当たり前にある存在となっていくということです。

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9. 実用的なブロックチェーン

9つ目は「実用的なブロックチェーン」です。ブロックチェーンは、数年前から将来的に有望な最先端技術として注目されていました。仮想通貨(暗号通貨)は、ブロックチェーンを活用した最も有名なサービスといっても過言ではないでしょう。ガートナー社は、ブロックチェーンに対して、現段階では成熟した技術ではないものの、近い将来には必ず企業に売上をもたらす存在となるため、ブロックチェーンを検討すべきだと言っています。

ブロックチェーンの強みは、「改竄の難しさ」と「トレーサビリティ」です。流通経路で何か問題がおきても、その商品がどこでどのような処理が行われたかをすぐにチェックできるようになります。最近では食の安全性が問題となっていますが、産地偽装や改竄を防ぐ有効な手段となるでしょう。このようにブロックチェーンの強みを活かせば、これまでの契約の在り方、そしてビジネスの仕組み自体が再構築される可能性を秘めています。

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10. AIのセキュリティ

最後は「AIのセキュリティ」です。今回ガートナー社が発表した戦略的テクノロジーの幾つかは、AIや機械学習に深い関連があります。AIや機械学習は、私たちの思考や判断を代替する可能性がある素晴らしい技術です。ただ、このようなAIや機械学習を活用したサービスやデバイスが増加するということは、悪意を持った第三者からの攻撃されるポイントが増加するということなのです。

PCであればウイルス対策ソフトを入れているから大丈夫だと考えている方も多いと思いますが、あらゆるものがインターネットにつながる以上、それらは全て第三者からの攻撃を受ける可能性があるのです。そのため「AIシステムをどのように守るか」「AIが悪用された場合どう対応するのか」に加えて、攻撃を受ける可能性がある側も「AIを活用したセキュリティ対策」を検討し、より強固なセキュリティ対策を構築していく必要があるのです。

セキュリティ対策はいたちごっこです。新技術が誕生すると、その技術を悪用しようという者が現れます。終わりがない戦いではありますが、ITエンジニアとしては過剰と感じるほどの対策を講じておく癖をつけておくべきでしょう。

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まとめ

今回は2020年に注目したいキーワードとして、ガートナー社が発表した2020年の「戦略的テクノロジ・トレンドのトップ10」をご紹介しました。IT業界は毎年新たな技術が生まれています。ただ、全てが0から生まれたものではなく既存の技術を拡大したものも少なくありません。全てを深く理解するのはなかなか難しいことですが、IT業界を目指す以上は、トレンドの概要は把握しておくことをおすすめします。

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